皆既日食ツアー(メキシコ ドゥランゴ)騒動記
都々逸
皆既日食ツアーに参加するのは、2009年の中国・武漢以来であった。前回は1泊2日の弾丸ツアーで、結果は太陽はちょうど皆既に入ると雲に隠れ、消化不良であった。その後2017年の北米では、ツアーに申し込んだものの入院で有休を使ってしまった為、泣く泣くキャンセル。今回は定年退職の思い出とばかりに大枚を叩いて、最も晴天率の高そうなメキシコ・ドゥランゴに行くことにした。しかし、後述の通りは波乱続きのツアーとなってしまった。
<ツアーの概要>
・天文ガイド協賛で、天文年鑑編集長(兼天文ガイド編集担当)も同行の8日間のツアー。参加者は20名ほどで、ほとんどが毎回参加の日食猛者たち。中には80歳で40回目というレジェンドも。(実質皆既日食を見るのは初めてと言うと、一斉に振り向かれた。場違い感が)
・皆既日食観測のほかはメキシコシティ市内観光、古代遺跡テオティワカンの観光。
・観測地までの行程は、成田からメキシコシティ(最大15時間)への直行便→ドゥランゴ(国内航空便2時間)→ 車で悪路2時間
<観測機材>
① SeestarS50:部分食の観望・撮影、皆既は動画撮影
② 一眼レフ(300mm、2倍テレプラス)、TOAST PRO(簡易赤道儀)、PC
③ コンデジ:地上風景をビデオ撮影
④ 双眼鏡8×42:主に皆既眼視用
<ツアー前のドタバタ>
最近、天文の趣味から遠ざかっていた為、事前準備・リハーサルをしようとしていた最中、コロナに罹患し高熱に苦しむことに。しかも後遺症もあり、発熱、激しい咳、息苦しさ。正直何度もキャンセル料を払ってツアーを取りやめようかと思った。しかも搭乗予定のアエロメヒコ航空の都合で午後便から午前9時の便に変更されたため、成田に前泊で出発が1日早まることに。しかし、奇跡的に出発2日前に平熱に戻った為、体調は戻らないまま参加を決めた。
ただ、このドタバタで準備がほとんどできずに荷物を詰め込んだ為、撮影に必要なものをいくつか忘れ、一眼レフでの撮影を諦めることに。(最近この手のボケは増えてきたが)
<出発後のドタバタ>
事前に観測地の電力事情が不安定(太陽光発電のみなので、夜は停電)なため、防災用の小型バッテリーを持参したが(電池が過放電だった為、前日に都心の販売会社で電池交換)、なんと飛行機内でライトが付きっぱなしになり、バッテリ消耗で役に立たず。
<観測地での事前のドタバタ>
観測地までは、未舗装で狭い悪路(一歩間違えば谷に転落)だったが、アドベンチャーの乗り物のようであった。現地には日食の2日前に到着。ここでSeestarの自動導入,追尾のリハーサルを行ったが正常に稼働。ところが前日になると20回ほど自動導入を試みたが全く機能せず。太陽は高度70度ほどのほぼ天頂付近なので、ファインダーもなくまぶしい太陽の導入は非常に厳しい。もちろん事前の練習もしていない。一気に落ち込む。
<日食当日のドタバタ>
当日は、前日までほぼ曇天であった空は雲もほとんどない晴れ。これは最大のラッキーだが風がかなり強いのが気になった。この強風が大きな不運をもたらすことに。
そして当日朝。結局、Seestarの機嫌は治らず、手動導入対応となった。しかも自動追尾も不正確なので、苦労に苦労を重ねた挙句、手動による追尾補正。そうこうしているうちに部分日食が始まった。部分食が進むと次第に風が強まった。ここでなんと高い場所に設置していたSeestarが1m下に転落。幸い落下地点が草地であった為難を逃れ、再度導入作業をすることに。Seestarではスペック上6時間稼働できるのだが、手動補正をしていた為か、皆既前にバッテリー残量が厳しくなった。頼みの小型バッテリーも前述の通り使えなかった為、部屋に戻りモバイルバッテリーで補充。ここで再度手動導入。
苦労の末なんとか部分食の観望・撮影はできて、ここまでは順調。「皆既30秒前!」の声が緊張感は一気に高まり、Seestarを予定通り録画モードに切り替える。ここで風がさらに強くなり、ビデオ撮影をしたコンデジが倒れこむ。慌ててコンデジのセッティング。
その後、皆既の4分15秒は予定通り双眼鏡での眼視を楽しめた。皆既時間帯が過ぎ、Seestarでの動画を見たが何も写っていない。「ガーーン!!」 そうだ突風のパニックで録画ボタンを押すのを忘れていたのだ。「取り返しが付かないショック。」
<本来の日食観望>
1) 日食前日
日食前々日、前日ともほぼ全面曇りだったので、「金星食」は全く望めず。
前日の夕方は晴れ間が出てきたので、ツアーメンバーは皆ポン・ブルックス彗星を狙った。私にとって初顔合わせだったが、双眼鏡でも尾がはっきり見ることができ撮影。
ここで、撮影中に突然白い煙が扇上に広がりやがて消えた。一体なんだろう?正体カリフォルニアから発射されたスペースXで、突然消えたのは1段ロケットが切り離された為らしい。思わぬ物をみることができラッキー感。
夜は、光害もなく最高の星空。地平線近くに南十字星や高度10度くらいにカノープスも見えたが、日本と違い上方のシリウスと競うくらい明るく見えた。
2) 日食当日
日食の撮影面は不具合ばかりではあったが、眼視では十分堪能できた。天気は部分食を含めて一度も遮られることなかった。双眼鏡を通してみる太陽は、コロナの流線やコロナがはっきり見え想像以上の素晴らしさだった。特にコロナは肉眼でもはっきりと赤く見えたのが印象的だった。また、太陽の近くには金星も明るく輝いていた。
観測地では、日本人は我々のツアーだけでメンバーは皆ベテラン揃いだったので、様々な機材が並んだ。一方その他はイギリス人グループが1組だけでその他はメキシコ人だと思われた。観測スタイルは日本人とは真逆で、双眼鏡さえ無く皆日食グラスのみで直前まで酒を飲むも方もあり、日本人は緊張感、外国人?(こちらが外国人か)は天文イベントを楽しんでいる様子だったのが印象的だった。